中小企業の経営者にとってマーケティングとは

中小企業のマーケティングは必要がなかった

マーケティングは、先の「マーケティングを振り返る」で見てきたとおり、
マスマーケティング全盛期の日本では大企業を中心に行われていました。

中小企業のマーケティングは必要ありませんでした。

なぜなら当時の産業構造を見ると、
系列や下請け構造の強固な取引関係の元、
親会社や取引先を伺いながら事業運営をしていけば安泰だったから。

素直に親会社や取引先の言うとおりにしておけば、
仕事も安定的に入ってきて食いっぱぐれることはない。

そのまま経済成長の波に乗れるので、
そもそもマーケティングの「マ」も字もいらない環境だったのです。

系列や下請け構造の影響下にない中小企業や
町のお店、商店街も地域のつながりが強くそのなかで商売が成り立っていました。

しかし、1990年代のバブル崩壊後、状況は一変します。

親会社の経営不安や子会社の整理、取引先の見直し、海外流出、下請けへの締め付けも強くなります。
地域のつながりも徐々に希薄していき、人の流れが変わりシャッター商店街に。
公共事業や補助金など政府の財政政策も消極的になり、
中小企業にとって厳しい環境になっていく。

世の中に溢れるマーケティング情報は大企業向けが大半

そのような中、何とかやりくりして、厳しい環境をくぐり抜ける経営者。
不運にも倒産に追い込まれた経営者。
2001年には倒産件数2万件近くと激動な経済環境になりました。

参考: 全国企業倒産状況 倒産件数・負債額推移 - 東京商工リサーチ

中小企業も自分の足で立ち上がって歩んでいく経営や事業運営が求められるようになります。

  • どうやって新しい取引先を見つけるのか。
  • どうやって新しい商売を始めるのか。
  • どうやって新しいお客さんを獲得するのか。

を悩みつつ、営業を強化したり、新事業を立ち上げたり、様々な試みをしていきました。

しかし自力でやるには、いままでマーケティングをやっていなかった分、相当な苦労があります。

マーケティングの情報も一般的なメディアの新聞、雑誌、書籍と扱う事例は大企業向けがほとんどです。
一部専門誌や中小企業向けのノウハウがあっても失敗の連続です。
なぜなら、ノウハウや事例があっても組織体制も人材もほぼないところからのスタート。
自社の現状を考えずに大企業向けのノウハウを適用して見当違いを起こしたり、
経験がないのでマーケティングノウハウの蓄積がほぼゼロでは、失敗するのが当たり前です。

成長を諦めて停滞してしまった経営者もいます。今もそのような中小企業が大半です。

中小企業がマーケティングをするために、経営者は何を考えなければならないのでしょうか?

中小企業の経営者に必要なのは「理念としてのマーケティング」と「実践としてのマーケティング」

マーケティングには4つの側面があると考えています。
中小企業の経営者は4つの側面をしっかり捉えて扱うことが大切です。
経営者が4つの側面をうまく認識できずに失敗しているのをよく見てきました。

そのマーケティングの4つの側面とは

  • 学問としてのマーケティング
  • 手法ノウハウとしてのマーケティング
  • 理念としてのマーケティング
  • 実践としてのマーケティング

です。一つ一つ見ていきましょう。

学問としてのマーケティングは、
先の「マーケティングを振り返る」で挙げたような「マーケティングとは」何かとか。
その背景にある論理を扱っていくものです。
極めて抽象度が高く、おもに学者が扱う領域です。

手法ノウハウとしてのマーケティングは、
コンサルティングファームが扱うフレームワークなど思考の枠組み。
過去の事例を扱う事例研究 (ケーススタディ) など分析的なもの。
書籍やセミナーなどでテクニックやノウハウを方法論として解説しているもの。
など知識の部類といっていいでしょう。

理念としてのマーケティングは、
つまるところ経営者 (または事業責任者も含む) の志に根ざしたものです。
経営者はすでに経営理念を持っていると思います。
マーケティングも同様です。

「この事業の存在意義とは何か」
「この事業の目的は何か」
「この事業で実現したいことは何か」
「この事業で商品サービスが果たす役割は何か」

経営者は、以上の問いを一番先に意識し、明確に持っていることが大切です。
それは、経営者の覚悟として表出しているものです。

実践としてのマーケティングは、
文字通り自分で行うことを第一とします。
そこでは試行錯誤の体験を通じてその会社ならではのノウハウを蓄積していくことを意味します。
そのノウハウとは、組織のなかで共有されて活用されているけれど、表には公開できない。
企業秘密だから公開できないという意味ではなく、そもそも公開できる手段がないといったところ。
暗黙知に近い知識だから公表してもなかなか理解されないし共有できないものです。
なぜなら価値観や企業文化と結びついた理論理屈の知識だからです。
長年経営をしていると事業にもそのようなノウハウの蓄積が見つかると思います。
同じようにマーケティングにもあるのです。
だからこそ、その中小企業の強さを見出せます。

中小企業の経営者は、4つの側面のどれに立脚すればいいのでしょうか?

中小企業の経営者が必要なのは「理念としてのマーケティング」と「実践としてのマーケティング」の二つです。

中小企業の経営者にとってマーケティングとは

中小企業の経営者にとってマーケティングとは「価値観を創り、価値を伝える」です。

「価値観を創る」

中小企業の経営者には志や情熱が必要不可欠です。
その情熱を事業に注ぎ込んでお客さんの期待を満たすことが不可欠。
お客さんは何に期待するのか。
表面的にはお客さんに提供する商品や体験するサービスの何かですが、
深く掘り下げると経営者の価値観しかありません。
経営者が成長を続けて事業の価値観をいかに高めるか。
それが強さの根源になります。

「価値を伝える」

中小企業の経営者には弱点があります。
それは「価値を伝える」努力をしないことです。
まえに述べた中小企業のマーケティングは必要がなかったことが遠因。

「価値を伝える」だからお客さんにその「価値が伝わる」
伝われば、お客さんの「声を聞く」つまり対話の始まりです。
そこでお客さんがなにを知りたいのかが分かれば、
おのずと行動してくれるようになります。

「価値を伝える」努力を少しするだけで、
お客さんの気持ちや行動に変化を促すことができます。
結果、事業環境が見違えるほど良くなることがたくさんあります。

中小企業の経営者にとってマーケティングには、
マーケティングの4つの側面の「理念としてのマーケティング」と「実践としてのマーケティング」がかけ合わさっているのが分かると思います。

中小企業の経営者は現場でノウハウを蓄積しつつ成果をひとつずつ達成することが求められます。
事業をうまく運営している中小企業の経営者は、
価値観を軸に強みを見出すことを地道に当たり前にやっています。

中小企業の経営者のみなさんがマーケティングに取り組むにあたって、一度考えてみてはいかがでしょうか。

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